人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「自己啓発病」社会 宮崎学(祥伝社新書)

「自己啓発病」社会 宮崎学(祥伝社新書)_c0190486_22191625.jpg


アウトロー本で有名な、宮崎学が意外な本を書いてる!と思って買った本

・・・・・・が、思いのほか、ハッとするようなところが多く、私のような人間への特効薬だったかもしれない。

私は、そこまで本気の読書家でもないのだけれども、いつしか私の部屋の本棚は小説よりも、ビジネス書、それも会計等の専門書ではなく、メンタル面の「自己啓発本」に埋めつくされるようになった。

一般的な「自己啓発書」に判を押したように共通して書かれていることがある。

①ポジティブ思考
②努力すれば、かならず報われる


色々なパターンでの書き方があるけれど、究極はこの二つである。
しかし、私も最近特に①についてウンザリすることがある。

「明るくポジティブになれよ」
なんていうのは落ち込んでいる人への一種の脅迫である。ポジティブになったり、あるいはネガティブのどん底になったり、それこそが通常の「人間らしい」振る舞いではないか。
本書では、仏教的諦観を書き連ねる五木寛之さえも「迂回的ポジティブ思考」と表現している。

本書は②の代表格として勝間和代さんをあげている。
努力してスキルを上げれば、高い年収を得られる。したがって、向上心を忘れず日々努力するのがいい。

この価値観について疑問をなげかけるのは、宮崎学氏だけではなく、最近たまたま読んだ京大教官の瀧本哲史も著書の中で同じようなことを言っている。
「勉強ブームのカゲには『不安解消マーケティング』がある」・・・と。
安易に踊らされて、資格などの勉強に走ったところで、それが努力相応の年収につながるかというと決してそうではないというのである。

しかし、決して「勤勉」を否定しているわけではない。
この本の神髄は有名な自己啓発本、スマイルズの「自助論」の読み解きのなかにある。

「自助論」??
自己啓発本の名著にして超有名本でしょ?「病」と名づける「自己啓発病」者のバイブルやん?と思われるかもしれない。

でも、ここが宮崎学のすごいところ。
この方は、スマイルズの自伝等を、古い訳のものも字引を引きながら、全文読んだという。

一般的に読まれている「自助論」は「抄訳」でしかないという。抄訳では肝心なところがすべてカットされてしまっているというのだ。
この抄訳だけ読むと、人は幸せになるためには、自助、つまり自分で努力するしかない、そして「努力すれば報われるんだ」という単なる「自己責任論」みたいになってしまっている。

その大事な部分を宮崎学はこのように解説している。

なんのために自学自修するのか。自修によってえた力によって貧困から抜け出して偉くなって財産をえることが目的ではない。
本当の繁栄とは何か。国の富がどれほど大きく、物資の製造の方法手段がどれほど完備していても、それだけで国が栄えているとはいえない。
「国民が有識であり、有識であるが上に確乎な品性を具えて居るのこそ本当の繁栄」である。そのために、われわれは学ぶのだ。



さらに私の勝手な解釈を入れると、
競争に勝つために学ぶのではなく、人として気高く生きるために学ぶ
というところだろうか。

成功という名の虚妄。成功のために学ぶのではなく、成功は単なる結果に過ぎない。

本当の豊かさとは、内面の豊かさにある。
単なるポジティブシンキングの押し付けは、かえって心を貧しいものにしてしまうのではないだろうか。生産性を高めるための、「機械的ポジティブ人間」の量産になってしまうような気がしてしまう。香山リカさんの提唱する「ちょいネガ」人間くらいがちょうどいいかもしれない。
by hito2653 | 2012-05-29 22:20 | 読書