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「『持たない』ビジネス 儲けのカラクリ」金子哲雄(角川ONEテーマ)

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先般、急逝され、生前の遺書までもが息をのむような素晴らしい内容であった、ということでまた話題となった金子哲雄さんの書き下ろしの新刊です。

「持たない」ビジネス
、というタイトルですが、家庭レベルにも言及していて、非常に読みやすく、論点がスッキリした良書です。

変化の速いこの時代に資産を「所有」することのリスクを説いています。

まず第一章ではマイホームの「購入派 VS 賃貸派」について、「マイホーム幻想」は国家の刷り込みである、と書いています。

この本で一番印象に残ったのは、
「借金して家を買いました。家は誰のものですか?」という問いに対して
⇒「銀行のモノです!」
という一文。

もし、住宅ローンの返済を止めれば、段階は踏みますが、競売になり当然ながら所有権は自分のものから他人のモノへ移転してしまいます。
そんなモノはマイホームでもなんでもない、と。

なるほど、納得ですね。

さらに、「所有」してしまうことによって、職場環境(転勤や転職)や家庭環境(子供が生まれる、など)に柔軟に対応できず、せっかく買ったマイホームが足かせとなってしまう、というのです。住宅ローンの支払いも「借金」ということで精神的重圧がかかる。このデフレ下では下手すると、マイホームを手放しても「借金」だけが残るというリスクも考えられる・・・。

「所有」について昔私の好きな土田賢二というコラム・エッセイ調の文章で人気の哲学者で印象に残っている言葉があります。
「日本人はなぜ『所有する』ということが好きなのか。地球ができたとき、土地なんて誰のものでもなかったはず。」

この言葉を見ると、所有する、ことへのこだわりはあまりなくてもいいのかな、という気がしてしまいますネ。

ビジネスにおいて分かりやすい例は液晶パネル市場。

つい最近まで32インチ、42インチ・・大画面液晶を生産する企業が市場をリードしていましたが、薄型テレビの市場が一巡すると、あっという間に大画面からスマートホンへと市場ニーズは変化しています。

多くの家電メーカーは世界的に大画面市場が拡大すると予想し、巨大な工場を次々と建設しました。しかし、工場が完成する頃には市場ニーズが変化しており、大画面を作れば作るほど在庫になってしまう。
赤字の垂れ流しのみならず、建設した工場の投資を回収できないまま事業縮小というケースが見られました。

そうこうしているうちに、スマートホン市場も一巡し、トレンドはPAD市場に移っている・・・

という具合に、明日のニーズを予測することは困難であり、世界的にメーカーは「自社工場よりEMS(受託生産)」という流れになっています。



ただ、ここに書いてあることはあくまで部分最適、というか自分だけが「勝ち逃げ」するための論理が書いてあるような気がします。

例えば、音楽はCDを買わずに曲だけをデータで買う、ゲームはダウンロード、家電量販店からネット通販へ、銀行には行かずにネットで決済、はては大学までキャンパスに行かずにサテライトで受講・・・・・・・・。

はじめからもたないことが競争力を生む、ということなのですが、
CDが売れないと音楽業界はシュリンクするでしょうし、CDショップは廃業。色々な人が職を失い、人とのコミュニケーションが希薄になっていく。

「持たない」ことに目を付けるビジネスが勝ち残るのは分かるんですが、全体として経済が活性化するとは思えません。経済学で言う、
「合成の誤謬」というやつなんでしょうか。


もひとつ意見するならば、この本に書いてあることは「京都」という特殊な土地柄にはなじまないところもあります。それは次のブログで(笑)

・マンションの市場価格は建物の減価償却以上に下がる。
・労働時間が長くなるなか「職住接近」が必要性を増しており、職場から近い都市部が高家賃を維持できる。

by hito2653 | 2012-11-20 22:00 | 読書